一握の真砂

ジャズりんご

情緒が死んだかもしれない

文庫本を一冊買って読んだ。SNS上で定期的にその本の台詞がバズるが、まだ読んだことがなかった。加えて疫病のために公立の図書館がしばらくずっと閉まっているので、読みたいなら買うしかないな、と購入する運びとなった。

あれだけ世の中の人になるほど~とかこの台詞いいね、と思われているのだから、しんみりした名文が頻出するのだろうかという期待があった。そんなことはなかった。淡々と出来事が綴られていく感じで、何ヵ所か感情的な起伏があったりして、まあ普通の「小説」だった。小説らしすぎるくらい小説だった。

情緒が死んだかもしれない。私はこの文庫本を読む前かなり期待していたから、ちょっとショックだった。もっと物語に没入できると思っていた。でも実際は舞台の脚本のように、ストーリーの何が起こるかを淡々と読み進めていくような感じで、物語の世界に入り込んで何かを見出したり、考えたりすることができなかった。

代わりに、キャラクターの否定的な台詞(たとえば、乱暴な言葉、罵倒)や、えぐみの強い感情に触れると、それが外傷のようにじんじんと痛む感触を覚える度合いがすごく強くなっていた。

この2,3年は特に自分に向ける意識で手一杯だったから、外部から受信するアンテナが弱っているのかもしれない。古びて、劣化し、満タンに充電できなくなったリチウムイオン電池のように、ストレスを受けることに対して非常に耐性が落ちているのを感じる。

とても残念なことだ。